研究学園の生活

5年前、8割以上の圧倒的反対多数で廃案になった「（仮称）つくば市総合運動公園基本計画」の住民投票について、今更ケチを付けるような記事が「NEWSつくば」に掲載されました。
「つくば市議会の愚かな選択」という攻撃的な見出しの記事ですが、よくもこんな見当違いな内容の記事を書けたものです。
筆者の坂本栄氏の記憶が都合良くすり替わっているのか、それとも当時の経緯をそろそろ市民が忘れていると高をくくっていい加減なことを書いているのかのどちらかだと思われます。

坂本栄氏は当該記事で、「もし住民投票が3択で実施されていれば、見直し＋賛成が多数を占め、優先度が高かった陸上競技場はすでに完成、今ごろ利用されていたのではないでしょうか。」などと、大嘘を書いていますが、基本計画の内容を知らないか、忘れているか、無視しているかのどれかです。
何故なら、基本計画では第一期工事は総合体育館とされており、陸上競技場は第二期工事となっていて当時の計画でも完成は平成33年度、つまり令和3年度となっていましたので計画通り進んでいたとしても完成していないのですから、如何にいい加減な記事であるかがわかります。

何しろ、市原前市長はPTAが陸上競技場の整備を要望しているから総合運動公園を造ると説明しながら、総合体育館の整備を優先していました。
2019年の茨城国体会場にすることが決まっていましたし、ラグビーワールドカップやオリンピックのキャンプ地などの誘致などを公言していましたから、陸上競技場の整備は総合運動公園整備の口実でしかなかったわけで、住民投票の結果で計画が見直しされたところで総合体育館の整備が優先されることに変わりはなかったことでしょう。
坂本栄氏の記憶からは、こういう不都合な事実が消え去っているようです。



今回は、坂本栄氏が書いた記事がいかに見当違いな内容かを指摘したいと思います。

指摘するのは、以下の3項目です。
1．提案された3択案は不適切な組合せだった！
2．「反対」の意思表示は決定された基本計画のみが対象だった！
3．中身が不明確な「見直し」は選択肢として不適切だった！

1．提案された3択案は不適切な組合せだった！

そもそも市議会で提案された3択案は、選択肢の組み合わせとしておかしいのです。

「直接請求に係る条例審査特別委員会」が提案した住民投票を3択にする修正案が、つくば市議会の公式サイトに掲載されています。
提案されていた3つの選択肢は以下の通りでした。

(1) （仮称）つくば市総合運動公園基本計画に「賛成」
(2) （仮称）つくば市総合運動公園基本計画を「見直す」
(3) （仮称）つくば市総合運動公園基本計画に「反対」

大抵の方は、この組み合わせに違和感があると思います。
3択というからには、それぞれが独立していて、他の選択肢と重なる部分があってはいけないはずです。
しかし、「賛成」と「反対」という二者択一の概念に「見直し」という別の軸が入り込んでいるので、単一の選択肢を選べない意見の人が出てきてしまいます。
「基本計画に反対なので、基本計画を見直すべき」と考えている人は、(2)と(3)の両方が当てはまってしまいます。
これでは、住民投票結果の解釈が分かれてしまい、何のために住民投票を実施したのか分からなくなります。

このように論理的に破綻した組み合わせである3択案を選ばなかった市議会は、愚かではなくむしろ賢いと考えます。

2．「反対」の意思表示は決定された基本計画のみが対象だった！

「NEWSつくば」で坂本栄氏は、「2択方式が採用されました。これによって、当初の運動公園計画を見直すという、現実策を探る議論は封じられたわけです。」と主張するのですが、これは明確な誤りです。
住民投票では、以下の2択が選択肢でした。

(1) （仮称）つくば市総合運動公園基本計画に「賛成」
(2) （仮称）つくば市総合運動公園基本計画に「反対」

つまり、反対されたのは「（仮称）つくば市総合運動公園基本計画」であって、総合運動公園を造ること自体ではありません。
市原 前市長は、住民投票結果を受けて「事業費が300億円を超える現計画を白紙に戻し、総合運動公園に必要な施設や規模を改めて議論したい」と表明すれば良かったのです。
8割強という圧倒的反対多数の前に、市原前市長が計画を見直してまで推進する熱意を失ってしまっただけで、2択案を採用したことによる問題ではありません。

何故なら、住民投票の結果が出るまで前市長は反対票が賛成票を上回った場合でも、「建設計画を全て白紙に戻すことは考えていない」と明言しており、坂本栄氏が所属していた常陽新聞にその発言が掲載されていましたが、坂本氏はすっかりお忘れのようです。

3．中身が不明確な「見直し」は選択肢として不適切だった！

「1．提案された3択案は不適切な組合せだった！」で既に3択案が選択肢の組み合わせとして、全く適切ではないものだったことを書きました。
仮に、3択案が適切な組み合わせとして以下のような選択肢だったとしても不適切でした。

(1) （仮称）つくば市総合運動公園基本計画に「賛成」
(2) （仮称）つくば市総合運動公園基本計画を「見直す」
(3) （仮称）つくば市総合運動公園の整備自体に「反対」

住民投票条例案を市議会に付議する際に添付された意見書で、市原前市長は「総合運動公園基本計画に対し「反対」として投じられた投票については，「総合運動公園の整備自体に反対する」趣旨なのか，「総合運動公園の整備には賛成だが，その規模や導入する施設の内容，建設時期等の見直しを求める」趣旨なのか，全く判別できません。」と主張していました。
しかし、「見直す」という選択肢があったとして、「見直す」として投じられた投票について「限りなく白紙に近い見直し」を望む趣旨なのか、「ほんの一部の計画を縮小する程度の見直し」を望む趣旨なのか不明確であることに変わりがありません。
つまり、「見直す」の選択肢は「100%賛成」と「100%反対」の間の全てを含み、限りなく白に近いグレーから限りなく黒に近いグレーまで含む選択肢になってしまうわけです。
これでは、「見直す」に投票した住民が何を望んだのかが把握できません。

そもそも住民投票実施時は基本計画が既に策定済みの状況でしたから、まず基本計画の撤回が必要か否かについて、つくば市民の意思表示が必要な状況であったことを忘れてはいけません。
基本計画の撤回が必要か否かを判断する際に「見直す」の選択肢があった場合、基本計画に賛成の立場の人にとっては「賛成」＋「見直す」の割合が賛成の割合だと解釈できますし、基本計画に反対の立場の人には「反対」＋「見直す」の割合が反対の割合だと解釈できてしまいます。

結局、3択案は住民投票の結果を都合良く解釈できるようにグレーゾーンを広く取っただけの案ということです。

最後に、当時住民投票条例について議論された市議会の議事録のリンクを貼っておきます。
議事録を読んでいただければ、市議会は愚かな選択をしたのかどうかが分かると思います。

平成２７年５月１日　第１回臨時会
平成２７年５月１日　直接請求に係る条例審査特別委員会
平成２７年５月８日　直接請求に係る条例審査特別委員会
平成２７年５月８日　第１回臨時会
平成２７年５月12日　第１回臨時会